スチレンモノマー(SM)とは

安全性について

主たるばく露源 1)

スチレンの主なばく露源は次のものがあります。

吸入

産業としてスチレンを使用や製造している過程での吸入。
自動車の排気ガスやタバコの煙などの成分として空気中へ放出されたスチレンの吸入。
特に、スチレンの職業ばく露では、強化プラスチック産業で高濃度のスチレンにばく露される可能性があります。

経口

果物、ナッツ、飲料、肉などいろいろな食品に天然物として低レベルで存在し、それら食品からの直接摂取。
またスチレン系食品包装用材料から食品へ少量移行されたスチレンの摂取があります。

1)
ATSDR (Agency for Toxic Substances & Disease Registry) Toxicological Profile for Styrene, (2010)

有害性情報

有害性情報については、「安全データシート(SDS)」及び「[参考情報] スチレンのばく露濃度と急性症状、作業環境ばく露許容濃度について」を参照してください。

人の健康へのリスク

日常生活での影響(一般公衆ばく露)

この濃度以下であれば一生涯スチレンにばく露されていても健康への有害な影響を受けないとされている室内濃度指針値が設定されています。

日常生活におけるばく露量がこの許容濃度を超えた例はほとんど報告されていないので、スチレンのばく露によるリスクは低いと言えます。

作業環境での影響(作業環境ばく露)

作業環境においては作業時間に応じた許容濃度が設定されていますが、作業環境で許容濃度を超えるおそれのある場合には保護具(呼吸器保護具、保護手袋、保護眼鏡、保護衣等)を着用することで、リスクを低減する対策が取られています。

許容濃度の一覧
ばく露 許容濃度 備考
一般公衆 0.22 mg/m3 0.05 ppm 厚生労働省(2000)
・室内濃度指針値
作業環境 42.6 mg/m3 10 ppm 日本産業衛生学会(2022)暫定値
・経皮吸収あり
- 10 ppm ACGIH(2020)2)
・TLV-TWA 3)
- 20 ppm ACGIH(2020)
・TLV-STEL 4)
2)
ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists):米国産業衛生専門家会議
3)
TLV-TWA(Threshold Limit Value -Time Weighted Average):1日8時間、1週40 時間の時間荷重平均濃度
4)
TLV-STEL (Threshold Limit Value –Short Term Exposure Limit):短時間許容濃度(15分間の荷重平均)

[参考情報]スチレンのばく露濃度と急性症状、作業環境ばく露許容濃度について

ばく露濃度と急性毒性症状に関する情報

欧米の公的機関が公表している情報を紹介します。

スチレンを吸入した場合の急性毒性の閾値

英国公衆衛生局 スチレン事故の予防と対応(抜粋)【Public Health England, Styrene Incident Management, (2017)

濃度 症状
87 ppm Vestibular impairment (1 hour exposure) 5)
前庭機能障害(1時間のばく露)
100 ppm Irritation of mucous membranes, eyes and upper respiratory tract 6)
粘膜、眼及び上気道への刺激
200 ppm Irritating to eyes and nose, central nervous system effects, drowsiness, nausea, disturbed balance, tendency of impairment of reaction time
眼及び上気道への刺激,中枢神経系へ影響(眠気、はきけ、平衡感覚が失われる、反応時間の遅延など)
350 ppm Marked effects on central nervous system and definite impairment of coordination and motor function 6)
中枢神経系への顕著な影響(動作・運動機能の限定的な障害)
600-800 ppm Strong immediate irritation of eyes and respiratory tract 6)
眼、上気道への強い刺激が直ちに生じる
5)
ATSDR (Agency for Toxic Substances & Disease Registry) Toxicological Profile for Styrene, (2010)
6)
International Programme on Chemical Safety, Environmental Health Criteria 26: Styrene, (1983)
急性ばく露ガイドラインレベル

米国環境庁 急性ばく露ガイドライン (抜粋)

レベル ばく露時間とばく露濃度
10分 30分 60分 4時間 8時間
レベル1 20ppm 20ppm 20ppm 20ppm 20ppm
レベル2 230ppm 160ppm 130ppm 130ppm 130ppm
レベル3 1900ppm 1900ppm 1100ppm 340ppm 340ppm
レベル1
この濃度より高い濃度では、感受性の高いヒトを含む公衆に著しい不快感や、兆候や症状の有無にかかわらない可逆的影響を増大させる。
これらの影響は、身体の障害にはならず一時的で曝露の中止により回復する。
レベル2
この濃度より高い濃度では、公衆に避難能力の欠如や不可逆的あるいは重篤な長期影響が増大する。
レベル3
この濃度より高い濃度では、公衆の生命が脅かされる健康影響、すなわち死亡の増加を生ずる。