スチレン・ポリスチレンの安全性
スチレンオリゴマー(ダイマー・トリマー)の安全性
ポリスチレン中にわずかに含まれているスチレンダイマーおよびトリマーは、1998年に環境省(当時の環境庁)が策定した「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」の中で、環境ホルモンの疑いのある物質としてリストアップされ、ポリスチレン製食品容器の安全性について議論されました。
その後、ポリスチレンからのスチレンダイマー・トリマーの溶出状況の確認や、溶出物についての国内外の研究機関で安全性確認試験の結果、人の健康に影響を与えないことが確認されました。
また、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省における検討でも問題はないと評価され、2000年10月にスチレンダイマー・トリマーは「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」のリストからスチレンダイマー・トリマーは削除されています。
スチレンダイマー・トリマーとは
- ポリスチレンは、数多くのスチレンモノマー分子が重合してできた物質です。
- スチレンダイマー・トリマーは、重合の度合いの低い物質であり、スチレンモノマーが2分子反応したものをスチレンダイマー(スチレン2量体)、と3分子反応したものをスチレントリマー(スチレン3量体)といいます。
それぞれ複数の分子構造を持つ異性体が存在しています。 - スチレンダイマー・トリマーは、ポリスチレン中にわずかに含有されています。1)
- スチレンダイマー・トリマーの溶出量は、通常検出できない程度です。
しかしながら、油分を多く含む食品と、比較的高温で接触する場合ppbオーダー(ppmの千分の一)でスチレンダイマー・トリマーが溶出することが報告されています。2)
参考文献
- 1)
- 食品用ポリスチレン製品中のスチレンダイマー及びトリマーの分析
河村 葉子 , 河村 麻衣子 , 武田 由比子 , 山田 隆 食品衛生学雑誌 39(3), 199-205, 1998-06-05- 2)
- ポリスチレン容器から即席食品へのスチレンダイマー及びトリマーの移行
河村 葉子 , 西 暁子 , 前原 玉枝 , 山田 隆 食品衛生学雑誌 39(6), 390-398, 1998-12-05
関係省庁における評価結果
関係省庁では、日本スチレン工業会の実施した試験結果を含めた国内外の知見をもとに、関係省庁で評価を実施し、それぞれ各官庁は以下のようなポリスチレンから溶出するスチレンダイマー・トリマーの安全性について判断を行い、その結果問題はないと結論付けられました。
1.環境省(当時「環境庁」)
- 2000年7月12日に開かれた第1回内分泌攪乱化学物質問題検討会において、「スチレンダイマー・トリマーのリスクを算定することは、技術的にみて現実的でないとともにその必要性はないと考えられる」との評価をまとめ、同年10月31日に開催された、第2回の同検討会において、スチレンダイマー・トリマーは、「現時点で内分泌攪乱作用に関して、これ以上の科学的検討を必要としない」として、以後の検討対象から外すとの判断が環境庁から正式に報告されました。その結果、「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」のリストからスチレンダイマー・トリマーは削除されました。
2.経済産業省(当時「通商産業省」)
- 1999年7月28日に、「化学品審議会・試験判定部会に内分泌かく乱作用検討分科会」を設け、食品容器に限らず内分泌かく乱作用を疑われる物質について文献等既存知見の評価、今後必要な対応、試験法の開発・実証に必要な情報について検討実施。同年12月21日に公表した中間報告書の中で、「スチレンダイマーおよびトリマーの内分泌かく乱作用について、評価を行うための各種スクリーニング試験はすでに実施されており、いずれもホルモン様活性を有しないことから、特別な試験の実施は必要ないものと考える。」と結論づけました。
3.農林水産省
- 1998年10月15日に「ポリスチレン食品容器に関するJAS規格に対する公聴会」を開催し、同年12月12日に「規格見直しの必要なし」との判断を下しました。この結論は、1999年4月の同省の「内分泌かく乱物質の農林水産物への影響問題検討会」中間報告書に明記されました。
4.厚生労働省(当時「厚生省」)
- 1998年3月に開催された「食品衛生調査会 毒性器具容器包装合同部会」において、ポリスチレンを含む3品目の環境ホルモン問題についての討議し、ポリスチレンについては 「さまざまなデータ・情報から判断して国が何らかの措置を講じなければならない状況ではない 」との結論づけをしました。
- 1998年4月12日に「内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会」を設置し、食品容器等に関連する化学物質の健康影響について検討し、1998年11月19日に発表した中間報告書の中で「これまでのところポリスチレンから溶出するレベルのスチレンモノマー、ダイマー、トリマーにより人の健康に重大な影響が生じるという科学的知見は得られておらず、現時点において使用禁止等の措置を講ずる必要はないものと考えられる」と結論づけました。
日本スチレン工業会が実施した安全性確認試験の結果
日本スチレン工業会では、欧米の事業者団体や国内外の有識者との連携のもと、国内外の独立の試験機関に委託して、以下の安全性確認のための試験を実施しました。
これらの結果、スチレンダイマー・トリマーを含むポリスチレンからの溶出物は、 「エストロゲン性(女性ホルモン様作用)が認められず」、「胎児および乳児への影響についても認められないこと」、さらに「遺伝子毒性は陰性であること」を確認しました。
1.スチレンダイマー・トリマーのエストロゲン性評価
試験目的 | 食品容器からの実際の溶出濃度レベルでポリスチレンからのスチレンダイマー・トリマーを含む溶出物が、食品容器からの実際の溶出濃度レベルでエストロゲン活性(女性ホルモン様作用)があるか確認する。 |
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試験実施機関 | TNO(オランダ応用科学研究機構) |
試験内容 | ポリスチレン(GPPS)の溶剤抽出物(スチレンダイマー・トリマーを含む)を、離乳した雌のラットに4日間経口投与し、子宮重量への影響を調べた。試験はポリスチレン抽出物をゴマ油に溶かして与えられ、各100、510、990µg/kg/dayの投与群、およびブランクコントロール群の4群について行った。また、テストの感度を実証するため、陽性対照としてジエチルスチルベストロールを与えた陽性対照3群についても試験を行った。 |
試験結果 | スチレンダイマー・トリマーを含む溶剤抽出物投与群には,標準食事群やブランク群との比較で,有意な子宮重量増加は認められなかった。一方、陽性対照群では有意な投与量に依存した子宮重量の増加が生じた。 この結果より、スチレンダイマー・トリマーを含む溶剤抽出物にはエストロゲン活性がないことが確認された。 |
本試験結果については“Journal Applied Toxicology, vol.21, p235-239(2001)”に掲載されています。
2.胎児、乳児への影響評価
試験目的 | 食品容器からの実際の溶出濃度レベルでポリスチレンからのスチレンダイマー・トリマーを含む溶出物が、食品容器からの実際の溶出濃度レベルで妊娠中の母親が摂取した場合、胎児及び乳児の発達 ・生殖、行動に影響があるかを確認する。 |
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試験実施機関 | (一財)食品薬品安全センター 秦野研究所 |
試験内容 | ポリスチレン(GPPS)のスチレンダイマー・トリマーを含む溶剤抽出物を、妊娠ラットに授乳期まで経口投与し、生まれた仔(F1)、孫(F2)の発達・生殖、行動試験を行った。投与量は推定1日摂取量の約1000倍(1mg/kg/day)までとした。 |
試験結果 | 母動物、F1産児、F2産児(孫の発育まで)に影響を示唆する変化は無かった。 この結果、スチレンダイマー・トリマーを含む溶剤抽出物は、食品容器からの実際の溶出レベルで妊娠中の母親が摂取した場合でも、胎児及び乳児の発達 ・生殖、行動に影響を与えないことが確認された。 |
本試験結果については“Reproductive Toxicology, vol.14, No.5, p403-415(2000)”に掲載されています。
3.遺伝子毒性
試験目的 | ポリスチレンから抽出したスチレンダイマー・トリマーについて、食品接触材料に関するFDAの試験ガイドラインに従い、細菌を用いた突然変異及び哺乳類細胞を用いた染色体異常試験での影響を確認する。 |
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試験実施機関 | (一財)化学物質評価研究機構 日田研究所 |
試験結果 | 両試験とも陰性と報告されています。 |
本試験結果については"Toxicology Reports vol.1, p1175-1180(2014)”に掲載されています。