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スチレンモノマー(SM)とは

歴 史

スチレンは1786年にニューマン(米)がLiquidambar(フウの木)から採取した樹脂を水蒸気蒸留することにより最初に発見したとされている。また、正式に論文という形で記録の残っているものでは、1839年にシモン(独)が天然のエゴノキの樹液から抽出される蘇合香(そごうこう、sterax)の成分としてスチレンを発見し「Styrol」と名付けたとされているが、この時点においてもその構造について解明されるまでには至っていなかった。

その後かなり経過した1920年代になって、同じドイツの化学者であり高分子の研究を行っていたシュタウディンガーは、スチレン分子が長い鎖状となった構造のポリスチレンを発見し、1922年にこれら研究成果を論文で発表し、高分子や重合といった概念を提唱した。

1930年代になるとスチレンの商業生産法が開発されたのを機に、第二次世界大戦中の合成ゴム需要に支えられ、1940年代にかけてその生産量は飛躍的に増加した。以後も、スチレンはその取り扱い易さと、安価で様々な分野で応用できるため、近年まで、着実にその生産量が増大している。


参考文献
1) ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING VOLUME 16
2) GIANT MOLECULES –Essential Materials for Everyday Living and Problem Solving SECOND EDITION
3) 英語版Wikipedia
4) ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL TECHNOLOGY (THIRD EDITION) VOLUME 2
5) Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry (fifth, Completely Revised Edition)Volume A25
6) About.com Inventors
7) STYRENE – Its Polymers, Copolymers and Derivatives Ray H. Boundy Raymond F. Boyer / Hafner Publishing Co.(1970)

製造方法

スチレンは最初、ケイ皮酸の脱炭酸により合成された。
今日、工業的に最も多く用いられているのは、エチルベンゼンを脱水素してスチレンを製造する方法(脱水素法)である。他にもエチルベンゼンを酸化・脱水してスチレンと酸化プロピレン(プロピレンオキシド)を得るハルコン法(PO/SM法)がある。かつては、エチルベンゼンを塩素化したのちに脱塩化水素でオレフィンとする方法やエチルベンゼンを酸化したアセトフェノンから水素添加したメチルフェニルカルビノールを経由して脱水反応オレフィンとする方法なども存在した。また、スチレンの生成を主目的とした石油留分の熱分解生成物から分離する方法も研究されたが、分離操作が複雑となるため発達しなかった。1)

脱水素法

脱水素法によりエチルベンゼンからスチレンを合成する際には酸化鉄触媒等が用いられる。反応は吸熱反応であり、分子増加反応であるため、高温と低圧が平衡的に有利な条件である。それゆえ反応は550℃以上の減圧下で行われる事が多い。さらに、反応時に発生する水素を酸化させることにより、反応に必要な熱を供給すると共に、反応場の分圧を下げて平衡を有利な方向へ導く方法も一部で採用されている。

脱水素法

ハルコン法(PO/SM法)

ハルコン法では、エチルベンゼンの自動酸化によりエチルベンゼンハイドロパーオキシド(EBHP)を合成し、EBHPにプロピレンを作用させα-フェニルエチルアルコール(メチルベンジルアルコール)と酸化プロピレンを生成。α-フェニルエチルアルコールの脱水によりスチレンを合成する。

ハルコン法(PO/SM法)

次世代のスチレン製造法として、トルエンとメタノールに塩基性ゼオライト触媒を作用させる方法が研究されている[b], [c]

1) 化学大辞典編集委員会 『化学大辞典5巻』, 1963, p.126-127
2) Stephen K. Ritter, Chemical & Engineering News, March 19 2007, p.46-47
3) Peter Taffe, ICIS Chemical Business, Jan. 21-27 2008, p.28-32
利用

専ら重合用のモノマーとして利用される。なかでも主に合成樹脂原料としての利用が大部分であり、ポリスチレン(PS)を始めとして、発泡ポリスチレン(EPS)、アクリロニトリル・スチレン(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、不飽和ポリエステル(UP)などがある。また合成樹脂以外の利用ではスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、スチレン・イソプレン・スチレン(SIS)、スチレン・ブタジエンラテックス(SBL)などのゴムや塗料・粘接着剤がある。

それら重合されたものは日用品、家電製品、事務機器、自動車部品、塗料、粘接着剤、樹脂改質剤にいたるまで幅広く利用されている。

スチレンモノマーの国内生産量は約300万tである。うち輸出が約150万t前後あり、国内需要は合成樹脂原料用が約75%、ゴム用が約10%、塗料・粘接着剤用他が約15%を占めている。

安全性
主たるばくろ源1)

スチレンの主なばくろ源は次のものがある。

・ 吸入 : スチレンを使用したり、製造している産業、自動車の排気ガスやタバコの煙など、空気中へ放出されたスチレンの吸入。
・ 経口 : 果物、ナッツ、飲料、肉などいろいろな食品に天然物として低レベルで存在する。それら食品、またスチレン系包装材料から食品へ少量移行されたスチレンの摂取。

またスチレンの職業ばくろでは強化プラスチック産業で高濃度のスチレンにばくろされる可能性がある。

有害性情報

発がん性
国際機関であるIARC(国際がん研究機構)によるとスチレンを2B「ヒトに対する発がん性があるかもしれない」というランクに分類している。
一方で、EUが2008年に発表したリスク評価書では、「ヒトに対する発がん性はない」と評価されている。

変異原性
染色体異常試験では、陽性と陰性の双方の結果が報告されている。

生殖毒性
マウス、ハムスターを用いた試験においては、影響があるとの報告事例はあるが、ラットを用いた試験における生殖毒性の報告は認められていない。

急性影響
スチレンは眼、咽喉、鼻への刺激を引き起こし、疲労感、めまい、頭痛、痙攣などの中枢神経系に影響を与え、高濃度でばくろすると意識を喪失することがある。

[参考情報] スチレンのばく露濃度と急性症状、作業環境ばく露許容濃度について

慢性影響
職業ばくろの慢性症状は、聴覚、視覚の反応速度などの中枢神経系への影響が報告されている。


参考文献
1) ATSDR (Agency for Toxic Substances & Disease Registry) Toxicological Profile for Styrene, November 2010
2) CERI/NITE スチレン初期リスク評価書77:スチレン

人の健康へのリスク

日常生活での影響(一般公衆ばくろ)
この濃度以下であれば一生涯スチレンにばくろされていても健康への有害な影響を受けないとされている室内濃度指針値が設定されている。日常生活におけるばくろ量がこの許容濃度を超えた例はほとんど報告されていないので、スチレンのばくろによるリスクは低いと言える。

作業環境での影響(作業環境ばくろ)
作業環境においては作業時間に応じた許容濃度が設定されているが、作業環境で許容濃度を超えるおそれのある場合には保護具(呼吸器保護具、保護手袋、保護眼鏡、保護衣等)を着用することで、リスクを低減する対策が取られている。

許容濃度の一覧

ばくろ

 

  許容濃度 備考
mg/m3 ppm
一般公衆 室内濃度指針値

0.22

0.05

厚生労働省(2000)

作業環境

許容濃度

85

20

日本産業衛生学会(2011)
経皮吸収あり

85

20

ACGIH(2011)
TLV-TWA

170

40

ACGIH(2011)
T LV-STEL




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